第2話 孫子の兵法も参考に

2008.02.01

食品の安全性に対する不安感は、社会が複雑になるとともに複雑になってきています。その底辺には、生物界における人類の位置や、食物に対する国民の正しい理解が得られていないことに一因があるように思われます。

人間を含む生物界は、微生物により支えられていますが、食中毒菌、腐敗菌やマイコトキシン産生菌等の汚染の疑いで食料が廃棄されることもあります。

2000年は、未曾有の食品への異物混入事例の報告が相次ぎ、大量の食品がリコールされ、廃棄されました。折角の食料が微生物汚染の疑いから廃棄されないように、微生物の生活に制限を加える必要もあります。

その一方で、味噌、しょうゆ、納豆に代表されるように我々にとって大事にすべき微生物もいます。また、バイ菌と呼ばれても通常は人間には害を及ぼさない微生物も多く存在します。

「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」、この教えは微生物制御にも通じます。 人間を守るために、どのようにして微生物を敵として戦い、あるいは味方として接するかを認識することは重要です(4)。

また、微生物制御は、食べる人側の問題や食品側の問題もあり、さらに複雑になっています。

食品中の微生物生育要因 人間の微生物感受性要因
内部要因 外部要因
水分活性Aw
pH
酸素含量
脂質含量
鉄含量
流通履歴
温度履歴
微生物フローラ
抗菌性物質
物性(固体・液体・気体)
環境影響(容器・包装)
その他
体質
体調
年齢
性(妊娠)
代謝
その他
温熱寒冷
湿乾
食物
大気

薬剤
化粧品
日光
放射線
微生物
ストレス
その他 

< 微生物の生育に影響する食品要因と、微生物に対する人間の感受性変動要因 >

世界に誇る日本料理の特徴の一つは、素材の良さをなるべく多く残すため、出来るだけ手を加えないことです。

現在、その日本料理の伝統を活かし、なおかつ中小企業でも無理なく導入できる衛生管理手法が求められています(5)。

食材に微生物がいるのが当然であり、殺菌剤等で消毒するのは栄養価や美味しさ等を低下させることになるのではないかといった指摘もあります。

以上のようなことから、微生物制御においても、食品として品質への配慮が必要になってきています。

【つづく】

 

文献:
4)食品安全委員会微生物・ウイルス合同専門調査会資料、食中毒原因微生物リスクプロファイル(案)、
http://www.fsc.go.jp/senmon/biseibutu/b-dai17/index.html、その他(2006)
5) 一色賢司:生食食文化と安全性の確保、FFIジャーナル, 212(8), 619-621(2007)